たま・あさお市民劇場 設立趣旨書
今日の複雑な、ともすれば心の健康を失いそうになる私たちの生活の中で、人は喜び、怒り、哀しみ、楽しんでこそ心のバランスが保てると思うのです。私たちは演劇を観ることで、その喜怒哀楽を心いっぱいに体験できます。演劇は多くの人手と費用が必要でありながら、空間と観客を限定するため経済的には恵まれない芸術です。テレビのドラマに比べても稽古や本番で拘束される時間が長く、その意味でも演劇は近代的な技術が生み出してきた便利さや迅速性とは対極にあるのかもしれません。俳優は一度幕を開けたら何があっても幕が下りるまでを努めなければならず、観客は定められた舞台に想像力を駆使して向かいあわなければなりません。しかしそうした制約は、今ここで同じ空気を呼吸する臨場感をむしろ高める力を持っているのです。生身の俳優の汗や息づかいを感じながら演劇を観る中で、感動の空気を舞台上の俳優に伝えていける、そんな舞台と客席との一体感を演劇は実感させてくれます。私たちはこの素晴らしい演劇を届けてくれる、また鑑賞会の歴史を共につくってきた新劇の精神を受け継ぐ創造団体とともに、日本の演劇文化を支えあっていきたいと願っています。
私たちの前身である川崎市民劇場・多摩会場は、「演劇鑑賞をとおして、多摩区に豊かなコミュニティを育もう」を合言葉に、他の3会場に支えられながら14年間多摩市民館を拠点に演劇鑑賞の輪を広げようと運動をしてきました。しかしここ数年、多摩会場はもとより他の3会場でも会員数の減少に歯止めがかからず、多摩例会を休会することになりました。この状況に至るまでをふり返ったとき、私たちの会は会費を持ち寄りサークル会員が運営する会だという基本を忘れ、この会の主体となるべき私たち一人ひとりが、いつのまにかお客さまになっていたことに一因があるのではないかと思い至りました。
このたびこのことに気づき、なにより川崎北部に根付きつつあるこの演劇鑑賞の輪を途絶えさせたくないと思う有志が集まり、新しい鑑賞会をつくろうと立ち上がりました。新鑑賞会では、川崎市民劇場・多摩会場の演劇鑑賞への熱い思いを引き継ぎ、「演劇鑑賞をとおして、川崎北部(多摩・麻生を中心に)に豊かなコミュニティを育もう」を再び合言葉にして、一人ひとりが考え、行動し、みんなで話し合うことで、自分達が元気になり心が豊かになる会をつくりたいと思っています。
そしてその運動の中で、演劇文化が私たちのまちにさらに根付き広がることをめざし、たま・あさお市民劇場をここに設立します。(2011年6月)